奥沢の地は、むかし水に恵まれた豊かな土地であった。野川とその支流が村を巡り、田畑は潤い、季節の実りは人々の生活を支えていた。だが、その豊かさを陰で支えていた存在があった。村の古老たちはそれを「白大蛇様」と呼んでいた。
この大蛇は、水源近くの杜に棲み、川の流れを守る神の使いとされていた。白い鱗は光をはじき、夜でもその姿は遠くから見えたという。大蛇は悪しき霊を祓い、干ばつや洪水の前には姿を見せて村人に警告したと伝えられている。
ある年、長い日照りが続き、用水は枯れかけ、田はひび割れた。困り果てた村人は、神社の前に集まり、白大蛇に向けて祈りを捧げた。その晩、空は暗雲に覆われ、雷鳴とともに豪雨が訪れた。川は甦り、稲も息を吹き返した。
この奇跡に感謝した村人たちは、藁と竹で白大蛇を模した巨体を作り、太鼓と笛の音に合わせて村を練り歩く行事を始めた。蛇の口には鈴が吊るされ、頭には五色の布が飾られた。その姿はまさに神の化身であり、悪疫退散・五穀豊穣を願う祈りの象徴となった。
いまも奥沢神社では、この「大蛇のお練り行事」が秋に執り行われ、地域の人々がその伝統を守り続けている。
