世田谷の冬に、突如として賑わいを見せる通りがある。毎年12月と1月に開かれる「ボロ市」は、今では東京を代表する骨董市となっているが、その始まりは戦国の昔にさかのぼる。
当時、世田谷城の城下町では、農民や職人が年の瀬に道具や衣類、農産物を持ち寄る「歳の市」を開いていた。貧しくとも工夫と誇りをもって物を大事に使い切る人々の知恵が、この市を支えていた。
ある年の市に、江戸から一人の旅人が訪れた。彼はぼろぼろになった蓑を見て、それを器用に修繕し、別の品と交換してみせた。周囲の人々はそれを見て驚き、口々に「捨てられる物も工夫次第」と称えたという。
この旅人の話が広まり、「ボロでも役に立つ」という思想が市の精神として根づいた。やがてこの市は「ボロ市」と呼ばれるようになり、古着や鍋釜、古本や道具、そして郷土の味が並ぶ、誰もが楽しみにする行事となった。
現代のボロ市では、何百軒もの露店が所狭しと並び、人波が絶えない。古びた玩具に足を止める子ども、懐かしい器を手に取る老夫婦。ここには、物を大切にする心と、世代を超えて受け継がれる温もりがある。
せたがやボロ市。それは単なる市ではなく、時を超えて人と物と心が出会う、特別な二日間である。
