世田谷のおはなし

代田餅搗き

代田の地に、寒さの残る旧正月の朝、杵の音が高らかに響く。それは「代田餅搗き」の始まりを告げる音である。

かつて、数年にわたる凶作がこの地を襲った。稲は実らず、畑は干上がり、人々は飢えに苦しんだ。年越しもままならぬ中、村の八幡神社にひとりの古老が立ち、こう告げた。

「力を合わせて餅を搗き、神に捧げよう。米は乏しくとも、心を寄せ合えば道は開ける」

人々はわずかに残った米を持ち寄り、夜を徹して餅を搗いた。それを神に供え、残りを分け合った。その年の春、田には久々の青苗が芽を出し、秋には豊かな実りが戻ってきたという。

この出来事を忘れぬため、村では毎年の正月に餅を搗き、神に感謝を捧げ、みなで食す行事を続けるようになった。男たちが杵をふるい、女たちが丸め、子どもたちはその様子を笑いながら見つめる。餅の湯気に包まれた境内には、世代を超えたぬくもりが広がっている。

「餅は人を結ぶ」。 今も代田の餅搗きは、人と人とをつなぎ、過去と未来を結ぶ大切な年中行事として息づいている。